ダーク&ノイズ
当然その女生徒も続けていじめを受けて退学したが、現在精神病院に入っているということで、リストからは外されていた。

『もしもし、幸恵。久しぶりじゃん』

代わって受話器をとった沙紀。真知子にしても声を聞くのはたしかに久しぶりだ。

だが通話口の声は、予想していたよりも随分と明るい。

(やっぱりこいつか?)


自分たちを殺せると思って舞い上がっているのだろうか?


真知子にはそういう邪推しかすることができない。

「ひさしぶり、でも残念。冬野だよ」

受話器を握り締めたまま凍りつく吉川沙紀の顔が想像できて、真知子は笑みを抑えることが出来ずに、口元をゆがませた。

「あのさ、じつはアンタの写真があるんだけど。ほら、前にあたしの男友達と遊んだときのやつ」

そのときの事を思い出した正樹が、こらえきれずに吹きだした。

含んだ笑いが車内に満ちる。


通話先の沙紀は沈黙したままだ。いや、しゃべれないというのが事実だろう。

「でさ、メモリー買い取ってくんないかな? そんなに高くねえよ。一万くらいならなんとかなんだろ?」

目的は別にある。

が、ただ呼び出すだけでは、またひどい目に遭わされると思って出てこない可能性がある。

払えるか払えないかの金額を設定し、金目的と思わせるくらいの悪知恵は働かせたつもりだ。

『そんなにお金……ないよ』

急にトーンの落ちた声を聴いて、それだけでも真知子は少し満足した。

「じゃあ五千は? そんくらいならあるだろ」

『……それくらいなら』

語尾が震えている。

「じゃあさ、あんたん家の近くに森林公園あんだろ。そこの入り口に来てよ。それで終わり。あんたにはもう絶対近づかないから。約束するよ」

『ホントに』

「ああ、約束するって」

『絶対?』

「しつけえな。絶対だよ。じゃあすぐ出てきてよ、ね」



吉川沙紀はずっと真知子たちの影におびえてきた。


(これですべて終わるのなら)


と、財布を握り締めて外に出た。


そしてそのまま、彼女はこの家に帰ってくることはなかった。

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