星屑
「お金はあって困るものじゃないし、それに生まれてくる子供のためでもあります。
これはわたしの自己満足に他ならないのかもしれないが、どうか協力させてほしい。」


「待ってください、土屋さん!」


彼が有名企業に勤めるエリートで、お金に多少の自由があることは聞いていた。


けれども奥さんと、生まれたばかりの子供がいることだって聞いていたんだから。



「こんなことを言うことはいけないのかもしれないけれど、何故もっと早くあなたと出会えなかったのかと思ったこともありました。
妻も息子も愛する気持ちは変わりないが、でも一方で、あなたに対する思いもあるんです。」


寄せられていた好意に気付いていないわけではなかった。


でもこの人は、それを隠そうと努めていてくれたし、想いを聞かされたのは初めてだった。



「あなたに何か見返りを求めてるわけじゃあないんです。
でも、苦しんでいる姿を見たくはないし、足長おじさんのように思ってくれれば良い。」


「…そんな、こと…」


「ただわたしは、あなたとの繋がりを求めているだけなのかもしれない。
だからどうか、許してはもらえないでしょうか。」


どうして彼の方が、頭を下げてくれるのだろう。


でも自分は、彼にここまで言ってもらえるような人間ではなくて、だからただ涙ばかりが溢れ、言葉にならなかった。


本当はこれからのことなんて不安だらけで、子供を育てていける自信なんてないんだ。



「…助けて、くださいっ…」


押しに負けた、なんてことは言い訳で、結局は自分自身の弱さだった。


甘えたくはないと思いながらも、土屋さんにも、そして真哉にも、助けられなければ生きられなかったのだろう。


康平とは、もう話し合おうとさえ思わない。


実家にも戻れず、恥じる願いだとわかっていても、子供のためだという理由に逃げた。


なのに目前の彼は、優しい顔で笑ってくれた。



「ありがとう、ナナさん。」

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