恋時雨~恋、ときどき、涙~
健ちゃんの顔が近付いてきた時、鬣のような髪の毛から落ちた雨粒が、わたしの睫毛に落ちて弾けた。


明るいブラウン色の髪の毛に夕陽が染み込んで、琥珀色に輝いて見える。


わたしは、健ちゃんから目を反らすことができなかった。


健ちゃんが、ひどく悲しそうな目をしていたからだ。


健ちゃんの大きな手が、わたしの顎を軽く持ち上げた。


わたしは、目を閉じた。


自分の唇が震えていることに気付いたのは、健ちゃんの唇が触れた瞬間だった。


初めてのキスは、熱い夕立に虹が溶けた、優しい味がした。


「おれ、今までずっと、人間不信だったんけ」


こんなにも人懐こい、健ちゃんが?


「辛いことばっかで、苦しかった。だから、ライオンが好きだんけ」


わたしは、健ちゃんの唇を読み取ることに必死だった。


「ライオンは強いから、うらやましい。おれも、強くなりてんけ」


初めて会った日から、健ちゃんはいつも無邪気であっけらかんとしていた。


だから、悩みなんてないんだと思っていた。


「本当に、辛かった」



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