恋時雨~恋、ときどき、涙~
順也が交通事故にあってから、静奈は地元の小さなクリーニング屋さんでアルバイトを始めた。


少しでも、順也の治療費などを負担できれば、そう思っての事だった。


わたしは、にっこり笑った。


〈本当に、大丈夫。帰りはバスもタクシーもある。いざとなったら、お父さんに迎えに来てもらう〉


少し考えてから、静奈はしぶしぶ頷いた。


「そう? まあ、全く知らない人ってわけじゃないしね。じゃあ、悪いけど」


申し訳なさそうに手話をする静奈に、わたしは微笑んだ。


「気を付けてね。知らない人について行っちゃ、だめだよ」


〈静奈は、心配しすぎ〉


「本当に、負けず嫌いなんだから」


ごめん、と両手を合わせて、静奈は小雨の中をバイトへ向かった。


わたしは、この時、何がなんでも、静奈についてきてもらうべきだったのかもしれない。






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