恋時雨~恋、ときどき、涙~
きれいに手入れが行き届いている、革靴。


しわの寄っていない、ストライプ柄のダークグレー色のスーツ。


清潔な白いワイシャツに、おしゃれな黒ぶち眼鏡。


美岬海岸で初めて会った時のラフな格好の亘さんではなく、社会人が板についた大人の男性に見える。


わたしは、メモ帳にボールペンを走らせた。


【スーツ着てるからびっくりしました】


メモ帳を見せると、亘さんは爽やかに微笑んで、名刺を差し出してきた。


グローバルアカデミー

営業部 佐藤 亘



「おれ、こう見えても、教材の営業マンなんだ」


そうなんだ。


だから、スーツなのか。


わたしが頷くと、「席、こっち」と亘さんがテーブル席に案内してくれた。


「何か、飲む?」


亘さんがメニューを差し出してきた。


わたしがアイスティーを指差すと、亘さんが店員さんを呼び注文してくれた。


「突然、呼び出したりして、ごめんね」


亘さんは、わたしが読めるように、ゆっくり話してくれた。


わたしが首を振った時、突然、亘さんが驚いた顔をしてカウンターの方を向いた。




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