恋時雨~恋、ときどき、涙~
夜空を見上げて花火を見ていると、しばらくして健ちゃんが戻ってきた。


わたしは健ちゃんの肩を叩き、ありがとう、と手話をした。


「あ、それ、ありがとうの手話だ」


頷くわたしに、何で? 、と健ちゃんは首を傾げた。


わたしは巾着袋からスマホを取り出して、文章を打った。


【さっき、かわいいって言ってくれたんでしょ?
静奈からきいた
うれしかった
そんなこと
お父さんしか言ってくれないから】



それを見せて、もう一度、ありがとうと手話を添えると、健ちゃんは顔を赤くしてわたしの額にデコピンをした。


「そんなこと、言ってねんけ。ぶ、す」


ブス?


わたしは両手を振り上げて、健ちゃんの肩をぶっきらぼうに叩いた。


わはははは、と大きな口を開けて、健ちゃんは笑い続けた。


でも、急にわたしの両腕を掴まえて八重歯を見せた。


「じっとしてて」


そう言って、健ちゃんはだぼだぼしたジーンズのポケットに、右手を突っ込んだ。




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