恋時雨~恋、ときどき、涙~
「東京でもどこでも行けば!」


大きな口で怒鳴って、静奈は教室を飛び出して行った。


わたしは、静奈を追い掛けなかった。


あの日から静奈とは会っていないし、ラインもしていない。


寂しかった。


でも、かえってこれで良かったのかもしれない。


気まずくなって、ますます仲は修復不可能になってしまったけれど。


これでいいのかもしれない。


この方が、別れが辛くなくていいかもしれない。


順也も静奈も、中島くんも。


誰もがわたしの東京行きを反対する中、幸だけは違った。


「そうなんか」


幸は責めることなく、反対することもなく、でも、賛成して心から応援してくれるわけでもなかったけれど。


「もう決めたんやろ? なら、しゃあないわ」


でも、幸だけは笑って、背中を押してくれた。


「真央の人生や。うちが口出しするわけにはいかんもんな」


〈ありがとう〉


幸はにっこり笑って、小さなため息をついた。


「せやけど。これからはつまらん毎日になってまうんやろなあ。真央がおらんと、つまらんやろなあ」


しゃあないけどな、そう言って、屈託のない顔で笑ってくれたのは、幸だけだった。


ほっとした。


たったひとりでも、笑ってくれる人がいて、ありがたかった。


幸は言ってくれた。



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