腐ったこの世界で


抵抗してもみなさんが洗う手を止めないので、あたしも抵抗を止めることにした。それよりも早く済ませた方が得策な気がしたから。
だけどすぐに後悔した。暴れてでも出れば良かった。
侍女のみなさんは抵抗を止めたあたしに、矢継ぎ早に質問を繰り返す。

「香油はどうしましょう?」
「ボディー・マッサージは…」
「ネイルケアも…」

貴族の湯浴みってのはこんなにも疲れるのか。風呂は疲れを癒す場所だって聞いていたのに。
あたしはぐったりしながら「みなさんのお好きにしてください…」と言ったら、なぜか侍女のみなさんは喜んだ。
それからさらに、あたしは湯浴みという名の「遊び」に付き合い、危うくのぼせかけたのだった。

「お召し物はこちらを」
「足元はこちらを履いてくださいね」

一度も着たことがないような絹のルームドレスを着せられ、足元も負担の少ない柔らかな靴を履かせられる。
信じられない。こんな日が来るなんて。

「旦那さまがお待ちです」

その一言であたしは気を引き締める。侍女のみなさんはあたしをさっきとは違う部屋に案内した。



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