ベンジャミンの窓辺で
白いハンカチで、やさしく指先を拭く。

拭き終わったらハンカチを横の楽譜置きのところに乗せ、手をグーパァと何回か閉じて開いてみる。

目を閉じて大きく深呼吸。

指先で白い鍵盤に触れる。
ひんやりと冷たい。

一番初めの和音を小さく弾く。

さっきまで感じていた胸騒ぎは、いつの間にかあまり感じなくなっていた。

スー――――――

大きく息を吸って脳から指先に指令を出し、弾き始める。

曲名はショパンの子守歌 変ニ長調

いつも始めはこの曲。

優しい気持ちになれるから。






















客の話し声も、ウエイターの足音も、食器と食器の重なる音さえ、耳に入ってこない。

ただ、本能のままに指が動いて行くだけ。

自分がこの世に一人でいるみたいな錯覚に陥る。

でも、そこにあるのは悲しみや孤独なんかではなく

優しさ、柔らかさ、なめらかさ、温かさ、、、


この気持ちは、ピアノを弾いているときにしか味わえないと思う。




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