オトコ嫌いなあたしと、オンナ嫌いなあなた。【完結】
「ほら、杏子さんも頭上げた上げた!」
高瀬さんはあたしのほっぺたを両手で包んで、俯いたあたしの顔を上げようとしてた。
……けど。
上げきる前に、意外な言葉があたしの耳に入った。
「結婚、してくれないか?」
その声を聴いた高瀬さんの手のひらが、ぴくりと震えたのが解った。
「え……?」
今、なんて言ったの?
あたしは高瀬さんの助けを借りずに、自分から赤石さんの顔をまっすぐに見た。
赤石さんは、口元にだけ微かに笑みを湛えてたけども。
その黒き瞳は、息が詰まりそうになるほど真剣な色を帯びて熱かった。
「杏子、私と結婚してほしい。私はきっといい父親になると思う」
繰り返し、彼はあたしに言った。
その声音や口調は凪ぐ湖面のように穏やかで、性急さや押しつけがましい響きは一切なくて。
ただ、懇願するような弱々しさと恐れや怯えすらも僅かに感じ取れた。
こうなった責任を取れ、だから要求を呑め。
そんな意図など微塵も感じなかった。