それでも、すき。


目的の場所に近付くにつれ、足が思うように進まなくなった。

今まで音楽室へ向かう時間が、こんなにも億劫になった事はない。



それでも、立ち止まる事なく人気のない廊下を歩いた。



一度でも足を止めたら、もう一歩も進めなくなるような気がして。

そうしたらあたしはまた、逃げてしまうんだろう。



でも、もう逃げちゃダメだ。


ちゃんと向き合おうとしてくれてる香椎くんを、これ以上裏切るなんて出来ない。

あたしはあたしの為に
もちろん香椎くんの為にも、弱虫な自分を捨てる覚悟を決めたんだ。




…そして、音楽室の前。

あたしは瞼を閉じ、一度深呼吸をしてドアノブを握り締める。



香椎くんは
きっと待ってる。

指定席のピアノの前で、あたしを。



…だから泣くな、あたし。

まだ何も話してない。
何も聞いてないじゃないか。


大丈夫。
まだ、大丈夫。


言い聞かせるように心の中で唱え、そして意を決し瞼を上げる。



……泣かない。



久しぶりに開けた音楽室の扉は、何だか少し

重く感じた。




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