それでも、すき。


一歩足を踏み出すと、音楽室から流れ込んで来たピアノの旋律。

何となくどこかで聞いた事のあるような、悲しげなメロディ。


あたしは扉の前に立ち止まり、鍵盤を叩く彼を見つめた。



夕暮れの音楽室。

響く音色。

揺れ動く、不安定な想い。



――何故。

こんなにも
ココロが震えるんだろう。




唇を噛み締め、溢れ出てくる想いを懸命に押し込める。

すると、ピアノを弾いていた香椎くんがあたしに気付き、その手を止めた。


夕日を背に、彼の視線があたしを捕らえる。

それだけで、正直なこの胸は痛い程高鳴るんだ。




「ごめん、気付かなかった。」

そう言って香椎くんはピアノの前から立ち上がる。


我に返ったあたしは、慌てて香椎くんから視線を逸らして言った。



「…ピアノ、」

「ん?」

「弾けるんだ、ね。」



…何言ってるんだ、あたしは。

世間話なんかしてる場合じゃないのに。




< 127 / 179 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop