それでも、すき。
一歩足を踏み出すと、音楽室から流れ込んで来たピアノの旋律。
何となくどこかで聞いた事のあるような、悲しげなメロディ。
あたしは扉の前に立ち止まり、鍵盤を叩く彼を見つめた。
夕暮れの音楽室。
響く音色。
揺れ動く、不安定な想い。
――何故。
こんなにも
ココロが震えるんだろう。
唇を噛み締め、溢れ出てくる想いを懸命に押し込める。
すると、ピアノを弾いていた香椎くんがあたしに気付き、その手を止めた。
夕日を背に、彼の視線があたしを捕らえる。
それだけで、正直なこの胸は痛い程高鳴るんだ。
「ごめん、気付かなかった。」
そう言って香椎くんはピアノの前から立ち上がる。
我に返ったあたしは、慌てて香椎くんから視線を逸らして言った。
「…ピアノ、」
「ん?」
「弾けるんだ、ね。」
…何言ってるんだ、あたしは。
世間話なんかしてる場合じゃないのに。