それでも、すき。


そんな場違いなあたしの発言に、「あぁ」と呟いた香椎くんはピアノに手を置いた。



「小学生の頃に少しね。母親に無理矢理習わされて。」

昔を懐かしむように彼は笑う。

あたしは相槌を打つ事もせず、ただ彼の声に耳を傾けた。



「でも中学に上がってから辞めちゃった。」

遊びたくて、と付け足した香椎くんがピアノからあたしに視線を移す。


今度は目を逸らす事なく聞いた。



「…何て曲?」


もしかしたら、少しでも時間を延ばしたかったのかもしれない。

話しを切り出されるのが怖いから。

香椎くんと一緒に居たいから。



だけど、あたしの問い掛けに俯いた香椎くんは突然口を閉ざした。

夕暮れに、彼の寂しげな横顔が揺れる。



…香椎くん?


妙な胸騒ぎが
ココロを掻き乱す。



そして、再びあたしと香椎くんの視線が繋がった時、彼は口を開いた。



「…ショパンだよ。」


ゆっくりと
確かめるように。




「ショパンの、“別れの曲”」


答えを、急ぐように。





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