それでも、すき。
“ゆずマーク”
それが香椎くんから毎日返されるノートの隅に書かれていれば
あたしは音楽室に行く。
そのやけに上手い柚の絵が、所謂あたしと香椎くんの『暗号』なのだ。
ゆずマーク=音楽室。
逆に、あたしが出来ない時。
そう、今日のように生理の場合なんかは、今度はあたしがノートの隅に小さなバツ印を書く。
バツ印=女の子の日。
けど香椎くんがどのノートを貸して、と言ってくるかわからないから
生理の時はとりあえず全てのノートにバツ印を書いておく。
そんな二人にしかわからない暗号で、あたしたちは音楽室で落ち合うのだ。
もちろん、ゆずマークが書かれていない時だってある。
そんな時はきっと
どこかで違う女の子を抱いているんだと思う。
…それを“寂しい”なんて思うあたしは、やっぱりバカなんだろうか。
「卵焼き、もーらいっ!」
「あ、」
最後の最後に残しておいた卵焼きが、ひょいっとお弁当箱から消え、彼の口に放り込まれた。
唖然とするあたしに
香椎くんは親指を舐めながら、目を丸くしてあたしを見る。
「ん?もしかして委員長、好きなモノは最後まで残しておく人?」
「…べ、別に。」
「そっ。」