それでも、すき。


“ゆずマーク”

それが香椎くんから毎日返されるノートの隅に書かれていれば
あたしは音楽室に行く。


そのやけに上手い柚の絵が、所謂あたしと香椎くんの『暗号』なのだ。

ゆずマーク=音楽室。



逆に、あたしが出来ない時。

そう、今日のように生理の場合なんかは、今度はあたしがノートの隅に小さなバツ印を書く。

バツ印=女の子の日。


けど香椎くんがどのノートを貸して、と言ってくるかわからないから

生理の時はとりあえず全てのノートにバツ印を書いておく。


そんな二人にしかわからない暗号で、あたしたちは音楽室で落ち合うのだ。

もちろん、ゆずマークが書かれていない時だってある。


そんな時はきっと
どこかで違う女の子を抱いているんだと思う。



…それを“寂しい”なんて思うあたしは、やっぱりバカなんだろうか。





「卵焼き、もーらいっ!」

「あ、」

最後の最後に残しておいた卵焼きが、ひょいっとお弁当箱から消え、彼の口に放り込まれた。

唖然とするあたしに
香椎くんは親指を舐めながら、目を丸くしてあたしを見る。


「ん?もしかして委員長、好きなモノは最後まで残しておく人?」

「…べ、別に。」

「そっ。」




< 16 / 179 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop