駆け抜けた少女【完】
力士との乱闘事件で負傷した沖田、その傷を癒やした時に確かに矢央は沖田の元服前の名を口にした。
「妙だな。 総司、その名をあいつに言ったことはあるか?」
「いいえ。 以前、昔話をしたことはありますが」
その時に話たのは、お華のことだけだ。
もし忘れているだけで、さり気なくどこかで話したかもしれないが、それでもあの危機迫る中で、普段呼び慣れた名前を言わないのはおかしい。
「そういや……医者が言ってたが、矢央の負った怪我自体はそんなに酷くはないと。 なのに、矢央は三日間も目が覚めなかった」
「藤堂さんの話によれば、何度か魘されて叫んだそうです」
「何を?」
譫言で何度か繰り返した言葉は三通りあった。
「一つは、何度も帰して…と」
「帰す? 夢ん中で迷子にでもなったか」
奴ならあり得ると、頷く土方に永倉。
沖田は、更に続けた。
「そして、暗い、痛い、辛い…と」
「いってぇ、どんな悪夢みてんだよ」
土方はたかが夢と、真剣に受け止めなかった。
「最後が、意味深なんですが……」
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