妖魔03(R)〜星霜〜
木槍がドアを突き破り、何かを刺したという手ごたえがある。

しかし、声一つないというのは不気味だ。

仕留めたことに変わりはないが、慎重に慎重を重ねよう。

家の出口は今いる場所しかないので、慎重もへったくれもない。

他は家の外壁で出来ていて、入る事は出来ないのだ。

変な造形にした自分を呪うしかないが、うろたえている場合ではない。

しかし、嫌な感覚だ。

何かが重く圧し掛かったような、胸の辺りが傷む感覚。

物を傷つけるとは、辛い事なのか。

傷つけられる側ばかりに回っていたので、知らなかった。

あまりいい気分ではない。

「確認しよう」

ドアの向こう側には幼女が尻餅をついている。

腹部に刺されたと思われるような傷を負いながら、何事もないような顔をしている。

痛がっていいはずの傷だが、汗一つかいていないというのはどういう事か。

読んできた本の中にはゾンビや狼男など、世にいない者は痛みを感じない症状があるというのは知っていますが、彼女は当てはまらない。

腐った部分や死体のような色の悪さ、毛深く牙が生えているわけでもないからだ。

「君は何者だ?」

腹部を見て不思議そうな顔をしている幼女は、起こった事がよくわかっていないのか。

ただ、腹部を触って手に付いた血を見つめているだけ。

目に映っている物すら解っていないようで、少し舐めると不味そうな顔をする。

飽きたのか、手を下げ私に近づいてくる。

私に恨みを持ち、復讐という感情に囚われたのではないか。

近づいてくる幼女を少しでも遠ざけたくて、私は後退りを始めた。
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