妖魔03(R)〜星霜〜
「こんな事をするつもりは」

自分で混乱していると理解出来ている。

刺したという事実は幼女に届いてしまったのだ。

扉に刺したままの木槍を再び刺せば、動かなくなるのか?

幼女が動いている場面を見てしまった以上は、傷つける行動には出られなかった。

恐ろしくて、勇気がない。

人を傷つける行動に痛みが伴う事は解った。

命を奪えば、彼女は動かなくなり私はどうなるのか。

痛みに押し潰されるかもしれない。

傷つけられるのも傷つけるのも、痛みが走ると解っただけでも大きな収穫か。

だから、幼女が近づく事に後退りで遠ざかるしか出来なかったのだろう。

後退りしながら部屋へ入ると、幼女も部屋の中へと侵入してくる。

幼女の瞳には私が映っているのか。

それとも、別の何かを探っているのか。

幼女の手に武器らしきものは見当たらず、服を血塗れにしながら前へと歩くだけだ。

「この場所に、君の求める物があるのか?」

私の横を通り過ぎると、物資を蓄えている場所を再び探り始めた。

数分経つと目的の物を見つけたようで、こちらに向いて物を見せる。

幼女の事をほとんど知らないし、人形のような幼女に嫌がる以外の感情があるのかどうかわからない。

幼女は少しだけ微笑んだ。

私が腹部を刺したにも関わらず、微笑みを作るとはおかしい。

幼女の手に在る物はオルゴールらしく、私に聞かせたかったのか開こうとした。

しかし、血を流しすぎたのか幼女が崩れ落ちる。

危害を加えてこないと解り、傍に寄ってみた。

幼女の手の側面部分は傷だらけで、扉をずっと叩いていたんだろう。

自分の痛みを感じていなかったから、酷使している事に気付かなかったのか。
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