妖魔03(R)〜星霜〜
暗闇の中、ゆっくりと瞼を上げる。

いつの間にか眠ってしまっていた。

目覚めた時には穴の開いた扉の隙間から、日差しが差し込む。

今日も一日が始まり、良い空気とは言えないが、息をすることで生きている実感を持つ。

「どこだ?」

幼女の姿が家の中にない。

自分から去ってしまったのか?

考える事に鈍い幼女でも、受けた仕打ちを考えると消えたくもなる。

余計な気苦労が消えたと喜びたかったが、落胆している私がいる。

苦痛を味わいながら一人で暮らしてきた私には、危害のない誰かが傍にいて安らいだのかもしれない。

幼女がいなくなったところで、いつもと変わりのない日々が続くと思えばいい。

「顔でも洗おう」

家から出ると目と鼻の先に水道が在る。

水道があるおかげで、命が延びているいっても過言ではない。

水は体の7割か8割を占めているからこそ、なければ死ぬ。

他にも栄養を取らなければならないので、必死で食べ物を探した時期があった。

生きるために図鑑を見て、生えてる草が食べられるかどうかも研究した。

それで、生きてきた。

扉を開けると、光とは別に辺りには耳に届く音がある。

「何の曲だ?」

滑らかな旋律は戦場を忘れさせる程、和やかな雰囲気に変わる。

私は音楽に触れ合う事がなかったので、有名な曲だったとしても聞いた事がない。

曲が流れる場所に、目を瞑って耳を傾けている小さな体の幼女がいた。

私の声が聞こえてなかったのか?

曲を聴くことに集中しているようなら、邪魔をしないほうがいい。

気付かれないように水道で顔を洗います。

水音で邪魔をしているような気もするが、顔を洗わなければ狩猟のやる気が出ない。

音を遮らないように、蛇口を捻って最小の水量で顔を洗う。

顔を水で潤わせると、殴られた痛みと爽快感で覚醒し始める。

近くにあったタオルで顔を拭き幼女を見たが、変わらない姿勢で曲を聞き入っている。

オルゴールの曲が気に入っているのか。
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