女王様御用達。
「……おわっ!!」
彼はまるで倒れ込むように部屋に入ってきた。
どうやら足に赤い絨毯を引っかけたらしく、しかも後ろ手は捕まっているので防御が出来なかったらしい。
思いっきりあごを打った姿が、僕との初対面だった。
「ごめんなさい、まさか転んじゃうとは思わなくて」
と、後ろ手を掴んでいた隊長は彼を丁寧に起こす。
女の身でありながら、ごつい銀の甲冑に身をまとった女性。
前髪を真ん中で分け、その黒髪は長く、常にニコニコと笑顔が可愛らしい彼女には、女王騎士の隊長をこなす実力の持ち主だ。
もやし男1人抵抗したところで片手で捕まえていられる。
が、誰にでも優しすぎるのが、この人の悪いところだと思う。
今捕まえているこの人はどうせ悪人だし、虫けら以下の価値もない人間だ。
気遣う必要なんかない。
……むしろ、僕としてはこの空間に一緒にいる事さえもむしずが走っている。
王様が支配していた頃に作られたハコモノであるこの施設は異様に豪華に作られていた。
床は花模様が金糸で刺繍された赤い絨毯で敷き詰められ、壁は万年生きた木を加工した本棚。
そして、ここにあるのは女王許可が無ければ閲覧不可能な禁書ばかりだ。
高い天井には大きなシャンデリアがかかっている。
そんな豪華な雰囲気に、その男はあまりに場違いだった。
服はぞうきんの色をした安いシャツとGパン。
髪はざんばらに切って、適当に固めてある。
染色なのか天然なのか分からないが、19という年齢の割に白髪が目立っていた。
まるでマダラのネコのように、部分部分で白が入った黒の髪。
その髪から覗く黒い目は、光が無い死んだ目だった。
弱者の目、執着さを見せない目。
今自分が置かれている状況が分からないからそれが怖いという恐怖の目。
その目で、隊長、僕、部屋をぐるりと睨み付け。
部屋の中心で不敵に笑う彼女に視線を止めた。