秋霖のビ
目をとじていると、いつもより敏感に鼻がきき、耳が動く。

雨と潮の香りは、嫌いじゃなかった。いつもは、嫌いなお酒のにおいも、今はなんだか落ち着く。

耳をすませば、遠くの方からビチャッビチャッビチャッと、雨の溜まった砂の上を誰かが歩く音が聞こえる。

こんな雨の中誰だろう。

絶対にないと、言い切ることができるのに、このズキッと胸を刺したものは何だろう。

立ち上がるのには早いのか。

それとも……それとも?

小さな期待が願望に変わったのかもしれない。願う事は自由だけれど残酷。

いつでも現実は虚しく、冷たいから。

それでも願わずにはいられない。だって凄く寒い。


音のする方に顔を向け、ゆっくりと目を開けた。
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