秋霖のビ
ぼやけた視界がやがてはっきりとしたものになり、ドキュッと胸の奥が鳴った。

一瞬、本当に願いが叶ってしまったのかと思った。

リアルってそんなもん。どちらかと言えば、さっきのビールよりも苦い。

その男は傘の存在を無視するかのように、左手にそれを持ち、雨の中海をひたすら眺めていた。

やがて、ビチャンという音と共に私の平行線上、50メートルほど離れた所に腰を降ろした。

私の存在も無視しているのか、それとも視界に入っていないのか、わからないけれど男は前を向いたまま、降る雨も気にせず、私に濡れた横顔だけをみせていた。

穏やかだった辺りが、また激しく荒れていく。台風でもくるんじゃないかと思うほど、静けさの中に時々吹く、強い潮風。

雨が流れ、開いた目を容赦なく襲う。
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