テアトロ・ド・ペラの憂鬱
「セッタ、ボーガンはどこにやったの?」
部屋の奥からタオルを持ち出してきたアコが言う。
アコの掲げたタオルに頭を押しつけ、縋る猫のようにセッタは腰を曲げた。
「…棄ててきた」
海に、とセッタは小さく口にする。
それは囁くような音量で、衣擦れに消えそうなほどの声であり、アコに辛うじて聞こえる程度。
しかしランチを終え、今度は宴会を始めた三人にはしっかりと届いていた。
「えっ!?マジで仕事だったの!?」
キッチンから持ってきたウィスキーボンボンを含んですぐにそう叫んだボウラーの口から、それが半溶けの状態で飛び出す。
「きたねぇ!」
野次を飛ばすのは勿論、ピピ。
それを無視して、アコはセッタの額に口付けた。
「…なにをころしたの?」
今日、休みだったのに。
やる気のない顔で笑う彼女に、セッタは手を伸ばした。
バネのある腕が、ぐるりとタオルごとアコを抱き締める。
それを気にした風もなく、ガフィアーノ、ボウラー、ピピは耳をそばだてた。
「猫…。議員の夫人が、夫より大事にしてる、猫」
うへぁ。
そう漏らしたのは、抱き締められているアコである。