テアトロ・ド・ペラの憂鬱
いつもにこにこしているタイプではないということくらい解ってはいるが、あまり芳しくないその表情に、アコは鼻の穴を膨らませた。
まさかやっぱりトラブルの件だったのだろうか。
そう思えばこそすれ、不細工な顔でもしていないとその高圧的な眼力には堪えられない。
「アコ」
カーラの静かな声が、アコの耳から脳天をぶちぬいた。
「上から多少の小言を言われたが、任務達成には変わりない。まあ、あの状況でよくやった、と俺個人は思っている」
から、なに。
ゴクリ、とアコの喉が鳴った。
「ボーナス」
ちゅ、と口付けられた片手に重み――分厚い現ナマ。
今度は別の意味で鼻穴が開いた。
「ア・モーレ!カーラ!」
ハグにキスにのし掛かり、長身の身体に両足を絡めてサルのようにまた、ハグ。
アコの喜び様に、カーラの灰色の瞳が細く揺らいだ。
「今夜はアルデンテにしろよ」
「合点だ!」
全員を前にして濃厚なフレンチを決めて、ふたりはやっと離れた。
アコはにやにやと顔を緩めたまま、上機嫌でガフィ、ボウラー、ピピにお裾分けをする。
エウロ(ユーロの伊語発音)数枚ではなく、ベーゼを数回。