恋口の切りかた
ほこりっぽい本堂の中はあちこち蜘蛛の巣があって、
床もあちこち抜けていて、

とてもとても人が住んでいるようには見えなかった。


正慶と名乗った片目の尼僧は、潜伏先の一つとしてここを使っているということで、常にここにいるワケではないらしい。


「またここにおいでになるだろうと思って、あれからお待ちしておりました」


本堂の床に腰を下ろした私と円士郎の前で、狒狒の正慶はそう言った。

隼人は私たちの後ろで壁に背を預けて、開け放ったままの扉の横に立っている。


「へえ。そいつは話が早ェな」

円士郎はほくそ笑んで、

「鵺の大親分とやらは、白輝血を何とかしてェんだろ。
こっちも事件を調べてる身でね。情報が欲しい。手を組みてえと思ってたところだ」


しかし、この言葉に正慶は首を横に振って、


「いえ。お待ちしていたのは、円士郎様にこの事件より手を引いていただきたいとお願いするためでございます」


そんな言葉を返してきた。


「なんだと!?」

これは予想外だったのか、円士郎が語気を荒くした。



正慶は

黒い瞳と
黄色い義眼と、

色の違う二つの切れ長の目で円士郎を見据え、



「これは我々渡世人の間の問題でございますよ。
御武家様によるこれ以上の詮索はやめにしてもらいましょうか」



どこか普通の女の人とは異なる威圧感を漂わせて、キッパリとそう告げた。
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