恋口の切りかた
「ふざけんな!」

円士郎が激怒して拳を床に叩きつけ、ただでさえ傷んでいる床が悲鳴を上げた。

「こっちは命まで狙われてんだぜ! このまま尻尾を巻いて逃げ出せるかッ!」

「危険な目に遭って、ようくおわかりになったのではございませんか。
表の世界で生きてらっしゃる御方が、深入りするべきではない事というのもこの世にはございますわえ」

激昂している円士郎にも正慶は全く怯まずに続けた。

「鵺の頭を司るこの正慶の言葉は、鵺の大親分の考えだと思ってお聞き下さいまし。
『虎鶫』は、何と申しました? あなた様にお力を貸して欲しいと、そう言いましたかえ?

カタギを巻き込まぬは任侠の道理!」


ぴしゃりと、義眼の尼僧は突っぱねた。


「……『銀治郎には』力を貸して欲しいと言われてねえがな、俺が動いてるのはまた別の理由だ。こっちにも『ハイそうですか』と引き下がるワケにはいかねェ道理ってもんがあるんだよ」

正慶にやや気圧されつつも、円士郎は負けじとその片目を睨み返した。

こうなった円士郎に何を言っても無駄なことは、私もよく知っている。


「虎鶫でなければ、仙太さんにでも頼まれましたかえ」

円士郎の様子を見た正慶は、美しい眉を歪めて溜息を吐き出しながら言った。

「御武家様方、あの者に騙されて都合良く利用されているだけなのではございませんか?」

「……俺の友達を悪く言うんじゃねェよ」

「友達? これは笑わせますねえ」

ふふ、と正慶は袖で口元を覆って笑って、


「本当のお友達ならば、巻き込みたくないと思うものじゃあないのかえ」


射抜くような隻眼の輝きを円士郎に向けた。


「あれは任侠の道理など通用しないお人です。表の世界の人間だって平然と利用する恐ろしい男でございますよ」

「黙れ! テメエにあいつの何がわかるッ!!」


円士郎が大声を出して、私はびっくりした。
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