恋口の切りかた
いやまあ、時間は凍りつかないだろうから、停止していたのは俺の脳味噌のほうだったわけだが。

「やっぱり、気づいていなかったのだな」

鳥英が寂しそうに言って、
俺の耳に、表の大地を叩く雨の音が戻ってきた。

「鳥英……あんた──」

「無理もない。私も今、自分の気持ちに気がついた」


ええ──?


再び脳味噌が停止しかかる俺の胸に、とん、と鳥英は額を押し当ててきた。


「馬鹿だな。遊水に夢中になりすぎて……自分でも気づかなかったよ。円士郎殿に惹かれる気持ちもまた──恋だったのだな」

「……鳥英、俺は──」


今日一番かもしれない衝撃を受けながらも、


一瞬、

親父殿と青文がやらかしたことに対する、こういう責任の取り方もあると思った。


鳥英と俺には──
鳥英とあいつの場合とは違って、何の制約もない。

俺が一人で背負い込んでさえいれば、鳥英には五年前の真相が伝わることもないだろう。


しかし──


「悪い。鳥英」

俺は静かに謝った。

「気づいてやれなくてすまない。だが、俺には──」

「──わかっているよ」


ふふ、と鳥英は切なげな笑いで答えた。
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