恋口の切りかた
「迷惑な話を言い出してしまった……円士郎殿には許嫁もいるのにな」

「──ああ、いや。大河の娘とは、ハッキリ言って微妙な関係になっちまったし」

「……そうなのか?」

「ま、色々あってな。それに、家格を考えれば、番頭の大河家との縁組み話は、雨宮家相手ならば断ることができる」


減石処分を食らったとは言え、家老家の家格というのはやはり権威のあるものだ。

個人的なワガママにしかならない留玖との婚儀とは全く違う話になる。


だが──そう、留玖──


「あんたは綺麗で、話してると楽しいし、時々ドキッとさせられたりするしよ。俺の正妻になってくれたら、そりゃ楽しいんだろうなと思うけど……

もしも──

俺が留玖と出会っていなければ、惚れてたと思う」


そんなもしもは存在しない。

俺の中で

留玖と出会っていない今は──


考えられなかった。



鳥英が、涙に濡れた目をちょっとだけ丸くした。

「おつるぎ様か」

「ああ」

「薄々そんな気はしていたが──本気なのか?」

「……ああ」

彼女はクスッと笑みをこぼした。

「お互い、面倒なものだな……誰かを好きになるというのは」

「……そうかもな」
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