恋口の切りかた
俺は、自分ではどんな顔をしているのかわからなかったが、彼女はそこに何かを感じとった様子だった。


「俺は、あんたにこれ以上辛い思いをしてほしくないんだよ」


俺は繰り返した。


「遊水は、駄目だ」


「それは──私が、雨宮の娘だからか」

「────」


自分でも、目の前が暗くなるような感覚に襲われながら、俺は頷いた。


「そうだ。あんたが、雨宮の娘だからだ」


俺の言葉は、どのような意味合いでこの武家の女に届いたのだろうか。俺が真に意図した部分は、知りようもないであろうが……

彼女は唇を噛んで押し黙り──



ばさっ、と──

何かが地面に落ちるような音がして、俺と鳥英は戸口を振り返った。



「……留玖──!?」

「遊水──!?」



開きっ放しになった戸口に立って、俺と鳥英に視線を送っていたのは、

艶やかな黒髪を束ねて男の格好をした少女と、金の髪に翠の瞳の男だった。
< 1,042 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop