恋口の切りかた
濡れた髪から雫がしたたり、俺の頬を滑り落ちていった。


「あんたともあろう人が、女の素性一つ知らないってことはねえだろうが!」


俺の頭上で梅雨の空がごろごろと鳴った。
遊水が眉を寄せた。


「知らなかったら……何なんだ?」


彼の顔に不審の色が浮かんでいるのを見て、俺は愕然とした。

本当に──


「あんた、何も知らないのかよ」

「……知らない。それがどうした」

「馬鹿な。蜃蛟の伝九郎の情報には手こずってた宗助が、たった半日で調べてきたんだぞ!」

「ふん? 円士郎様は彼女のその素性とやらを知ってるってことかい」

「……そうだよ。なんであんたが知らねえんだ!」

理由は一つしか考えられなかった。
知略や情報に何より通じたこの男がこんな手に入りやすい知識を本当に持っていないならば

──意図的に、知ろうとしなかったからだ。

鳥英の言葉を思い出す。

「あんたは正体を明かせねえのに、彼女の正体だけを知れば──後ろめたいからか? 彼女に対して罪悪感を抱くからか? こんなの、あんたらしくねえだろ」

こんなのは──操り屋らしくない。


そこまで


こいつもまた本気で鳥英のことを……──
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