恋口の切りかた
「こんな雨の中、傘も差さずに何してたんですか?」

険しい目で隼人に詰問されて、私は返答に困った。

「そ、そんなの……隼人さんだって……」

川に入る前から、やっぱり全身雨に打たれて濡れていた隼人を見て、私はもごもごと言い返した。

ああ、と隼人は土手を指さして、

「俺の傘ならちゃんとあそこに……まあ、もう意味ないですけどね」

髪からしたたり落ちてきた雫を拭って、少しだけ笑った。


「雨の日にずぶ濡れで泣きながら川の中に立ってるなんて、尋常じゃないでしょ。死ぬ気だったんじゃないなら、こんなところで何してたんです?」


泣きながら──?


私、泣いてたの……かな?


隼人の言葉を聞いて、濡れた袖で目を擦った。


そんな私の様子を見た隼人は、気遣うように目つきをゆるめて、周囲で私たちと同じように雨を浴びている紫と白の花をチラと見て肩をすくめた。

「ハナショウブを見に来た、とか言わないで下さいよ」

「ハナショウブ……?」

私は辺りに咲いている濡れた梅雨の花を眺めた。

「アヤメではなくて?」

「……アヤメもカキツバタもとっくに終わってます。乾いた場所や川の中ではなくて、こういう川のそばの湿地に咲くのはハナショウブですよ」


そうなんだ。


「隼人さんは……花の名前に詳しいんですね」

「まあ……」

「エンは──変な知識はあるくせに、こういうの、全然、知らないのに」


名前を口にした途端に、とてつもない孤独感が襲ってきて、悲しくてたまらなくなって、私は息が震えて呼吸がおかしくなるのを感じて──


隼人が困り果てた様子で私を見下ろした。
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