恋口の切りかた
「俺は……昔、この花が一番好きだって言った奴がいて、それで……」


ぽつりと、隼人はそんなことを言った。


私は、ひくっ、ひくっと変に痙攣する息を何とか整えようと努力しながら、

この若い侍が、ハナショウブの咲き誇る川縁で、雨の中、何を考えながら刀を振るっていたのだろうと思った。


「さっきの、何の練習ですか?」

私や円士郎の前では見せたことのない、先程の隼人の太刀筋を思い描きながら問うと、

「あーやっぱり見られてましたか」

隼人はぽりぽりと濡れた頬を掻いた。

「こんな雨の日に河原に来る奴なんていないだろうと、せっかく人目を避けたつもりだったのに……ったく、おつるぎ様の意味不明な行動のおかげで……」

私への気遣いからか、
ちょっとふざけて、いつもの調子でへらへらと笑う青年を見上げて、


初めて、
私はこの人が自分たちの知らない強さを隠し持っていることを悟った。

自分たちの?

いや、ひょっとしたら、円士郎はどこかでそれを見抜いていたのかもしれないという気がして、


円士郎のことを思った途端、また胸が締めつけられるような感覚に襲われて──


そこから逃れるように、私は隼人を睨み据えた。


「隼人さん、私と真剣で勝負して下さい」


隼人のつんとした目が丸くなって、


「はあッ!?」


どうどう、という川の音に重なって、彼の頓狂な声が響いた。
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