恋口の切りかた
ほんの少しでも手元を誤れば、互いの命を奪うことになる。

狂気の沙汰とも思える勝負だった。


しかしこんなやり方の提案をしてくるということは、
この小太刀の達人の青年は、そのほんの少しの誤りなしに私の首に巻いた髪結い紐だけを切る自信があるということだ。

そんな使い手だということだ。


ぞくっと、私の体の奥で全てを忘れさせてくれる衝動が頭を起こした。


あるいは──

隼人は、

少しの間違いも許されないこの状況で、喉元の紐を切るという真似ができなければ、蜃蛟の伝九郎という者に勝てないと思っているようにも受け取れた。

だとすると、どうして彼がわざとこのように自らを追い込む必要があるのか、私にはよくわからなかったのだけれど……


やったことのない勝負だ。


好奇心と興奮が、私の心を騒がせた。


「蜃蛟の伝九郎ってのも──」

首に紐を巻きながら、隼人は苦笑して、

「──そんな風に、命のやり取りで楽しそうに笑う剣客なんですかね」

と、独り言のようにこぼした。


互いの首に結ばれた紐を確認して、


降りしきる雨に煙るハナショウブの中で、私と隼人は向かい合って立った。




私は腰の刀を、
隼人は小太刀を抜いて構える。



稲妻が光り、空が轟音を鳴らして──

それが、開始の合図となった。
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