恋口の切りかた
のそりと、座敷の襖に映った大きな影を揺らして伝九郎が立ち上がった。

「ああ、お玉とか言うあの女のことなら心配いらんぞ」

あっさりとこの用心棒の口に上った女の名前に、兵五郎が舌打ちし、俺は貸元を睨みつけた。

「やっぱりてめえらの仕業じゃねえかよ!」

怒鳴った俺を一瞥して、兵五郎は嘆息しながら伝九郎に視線を向けた。

「困りやすねェ、先生。持ち場を離れてこんな所に戻って来られては。女はどうしました?」

「ふん、たっぷり楽しんだから子分どもにくれてやったわ。今頃、奴らが大喜びで玩具にしておるところだろう」

「おい──!」

伝九郎の言葉に、俺は血の気が引いた。

「楽しんだ」「玩具」

それらの単語の示す意味を否応なしに悟って、目の前が暗くなる気がした。

「留玖は……!? てめえら、留玖はどうした……っ!?」

掠れた声で尋ねた俺に、「それよ」と伝九郎が少しだけ眉間に皺を寄せて言った。

「まんまと霧夜の奴に取られたが、やはり儂も次はあの娘で楽しみたくなった。霧夜とあの娘の居場所はどこだ? 奴め、儂には教えようとしなかったからのう」


霧夜の奴に取られた──!?


顔に大きな傷のある、凶悪な形相の散切り頭の男が脳裏に浮かぶ。


霧夜って、あの暗夜霧夜のことか?

狂犬だという噂で、何をしでかすかわからないと言われている──
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