恋口の切りかた
「待て」と、隼人は静かに俺に言って、


「放せ──」


その腕を解こうとしながら隼人を振り返った俺は、言葉を途切れさせた。


彼の瞳の中には、俺が出会ってから初めて見る、激しい憎悪と怒りの炎が燃えていた。


「腕を見せろ」と、隼人が伝九郎に低く命じた。


ん? と浪人は少しだけ眉を上げて隼人を見て、

「これのことか?」


袖をめくって見せた。


行灯の光に照らされて、黒いカラスの入れ墨が、影のようにその腕に貼りついていた。

カラスの足は三本。
話に聞いたとおりの、八咫烏の入れ墨だった。


「おい、隼人……」

食い入るように、闇鴉の一味の証だというその入れ墨を見つめる隼人に薄ら寒いものを感じ取って、俺は声をかけた。

「……ああ、大丈夫だ」

隼人は入れ墨から目を逸らさぬまま、そう答えて、


くくく……、と伝九郎が喉を震わせた。

「おぬしも、かなり使うな」

言うなり、浪人の腕が刀を抜き放った。

「女で遊ぶよりも愉しめそうだ」

用心棒のこの勝手な行動に対して、兵五郎は制止の言葉を何一つ発しなかった。
< 1,150 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop