恋口の切りかた
「いやぁああああっ」

私の上げた悲鳴に、円士郎がびっくりした表情になる。


私は無我夢中で、霧夜を刺した男を斬り倒した。


刀が刺さったまま、霧夜がうめいて座敷の床の間に手を突く。

私は大急ぎで駆け寄った。


散切りの髪がうつむいた顔を隠してよく見えないが、刀は右目に突き刺さっていた。

私の体が、氷水を浴びたように冷たくなる。

暗くて傷の深さはわからないが、あんな勢いで骨のない目の位置を長刀に貫かれたら、脳に達して致命傷になっていることは明白だった。


「やだ! 死んじゃ、やだよ!」


この人は悪い人じゃないのに……!

渡世人でも、私のことを助けてくれて、気遣ってくれて、本当は優しい人なのに……!


「霧夜!」


必死に叫ぶ私に、兵五郎の子分が襲いかかってきて──円士郎がそれを斬った。


「留玖! そんな奴のことなんか放っとけ!」


冷たく言い放つ円士郎に、私は泣きながら訴えた。


「エン! 霧夜は、蜃蛟の伝九郎に酷い目に遭わされそうになった私を助けてくれて、逃がしてくれたんだよ! 霧夜がいたから、私は無事でいられたんだよ!」

「え……?」

円士郎が驚愕の表情を浮かべた。


それなのに、私はこの人を助けてあげると約束したのに、逆にまた救われて、
守りきることができなかった──。

霧夜を見下ろしてポロポロ涙をこぼしていたら、くくっと小さく笑う声がして、霧夜が片手を伸ばして私のほっぺたを優しく撫でた。

「あーあ、またこんなに泣かせちまって……ごめんなァ」

私は何も言葉を返す事が出来なくて、
霧夜の手をぎゅっと握って泣き続けて──
< 1,167 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop