恋口の切りかた
「円の字の旦那!」

唐突に声がかかって、人の良さそうな中年の男がこちらに歩み寄ってきた。

虎鶫の貸元、銀治郎だ。

「銀治郎、てめえらどうしてここに……」

円士郎が親分に尋ねて、

「どうしてもこうしてもありませんや!
おつるぎ様がカガチにさらわれたって聞いて、じっとしちゃァいられませんぜ。
もうそいつが仁義ってェもんでしょうよ」

銀治郎は不敵にそう言った。

「もう勘弁ならねえってことで、殴り込みをかけたんでさァ」

と、周囲にいた銀治郎の子分も力強く頷いて、

「って、おつるぎ様!? 大丈夫だったんですかィ」

私に気づいて目を丸くした。

「その格好は……?」

「あ、ええっと、これはその……」

私はモゴモゴと言いながら立ち上がって、霧夜──ではなく狸の与一を、助けを求めて見上げた。


与一は私のをほうを見ていなくて、銀治郎親分たちにじっと視線を送って、「てめえらの侠気、しかと見たぜ」と言った。


「てめえ、その散切り頭、暗夜霧夜か!?」

「え? でも顔が……」


虎鶫の子分たちが騒ぐ中、霧夜は乱闘の続いている隣の部屋にすたすたと歩いていって、

宴会でもやっていたのか転がっていた酒瓶を拾い上げて栓を抜き、

「いたただくぜ」

目を見開いている兵五郎を傲然と振り返った。
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