恋口の切りかた
その切っ先が、与一に届く寸前で、

ヒュヒュッという、あの不気味な風切り音が聞こえ──


誰も何もしていないのに、兵五郎の手から匕首が弾き飛んだ。


何が起こったかわからない顔で、兵五郎が立ち尽くした。

「忘れたかい?」

と、泰然とそんな兵五郎を眺めて、与一は整った顔に冷笑を作った。

「ここは『奴』の仕掛けの中だ。さっきここで、円士郎様を始末させようとしたばかりじゃないかい」

それって──

先刻、暗闇の中で首を締め上げられた時のぞっとする記憶が蘇って、俺は小さく身震いした。

「クソ、蚕糸の野郎かッ!」

兵五郎が焦った声で毒づいた。

「これまで渋ってやがったのに、急に人質貢いでなびいてきやがったからおかしいとは思ったが──」

「懐柔できたかとでも思ったかい」

俺たちにはよくわからないやり取りをして、与一は面白くなさそうに吐き捨てた。

「甘いね。奴に試されたのサ。俺もてめえもな」


──試された?

これはどういう意味なのだろう。


鵺の大親分の正体を見てなお、白蚕糸なる者については未だ俺にも不明なまま残された謎の一つだった。

ただの囃子方の三味線弾きでないのだけはもはや明白だったが。


兵五郎が険しい顔つきで舌を一つ打ったその時だった。

淡い青色に明けてゆきつつある外の空気を震わせて、鋭い呼び笛の音がした。

続いてどかどかと、踏み込んでくる足音がして──


御用提灯を構えた神崎帯刀が、同心を従えて現れた。

「白輝血の兵五郎とその一家、結城家の御息女及び町長屋の娘拐かしの罪により召し捕るッ」

「な──!?」

俺も含めその場にいた者全員が目を剥いた。
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