恋口の切りかた
逃げやがった!

俺は慌てて、明るくなりつつある庭のほうを見回して──

ふと、
室内に目を戻し、役人の出現に戸惑っている渡世人たちの中で、顔色一つ変えずにいる二人の人間に気がついた。

「役人使って一家を壊滅させようたァ、怖いお人だぜ」

と、遊水がニヤニヤしながら与一に言い、

「俺は、銀治郎一家までここに寄越すように依頼した覚えはねェけどな」

いつの間にか着物を着て背の入れ墨を隠した与一が、涼しい顔で肩をすくめた。


俺は唖然となる。

銀治郎たちも役人連中も、この場に現れたのは操り屋が仕向けたことらしかった。


「そっちこそ、契約違反だぜさっきのは」

遊水はにやついていた顔をしかめて、緑色の目玉で与一を睨んだ。

「こんな大勢の前で正体見せるなんざ、狂気の沙汰だ。ごまかすこっちの身にもなりやがれ」

──んん?

与一は、悪い悪い、とちっとも悪びれた様子なく笑って、

「さすが操り屋。うまく、虎とは別人だって思いこませてくれたじゃないか」

そんなことを言った。


俺は、成る程と納得する。

先刻遊水が、「その男は霧夜ではない」という内容を口にしたのは、やはり鵺の正体を隠すための方便だったようだ。

契約違反、などという単語が口に上ったところから察するに、与一が遊水に何らかの依頼をしていたというところだろうか。


この食えない二人、どうやら以前から繋がっていたようだ。
< 1,187 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop