恋口の切りかた
「ああ、兵五郎ならさっき裏から外に逃げて行きましたぜ」

しれっと遊水が言って、

「貴様、それを何故黙って見ていた!?」

若い与力が食ってかかり、

「兵五郎じゃねえ!」

円士郎が怒鳴った。

キョトンとする面々の中で、

「隼人のことだよ!」

円士郎の口からは、その場にいない猫目の侍の名前が飛び出した。


「あいつ──蜃蛟の伝九郎と立ち会って、一人で向こうの座敷に──」


言うなり、

廊下に飛び出し、円士郎は走って行ってしまった。


隼人が、蜃蛟の伝九郎と!?

私は、隼人との一昨日の河原での勝負を思い出して背筋が冷たくなった。

慌てて円士郎の背中を追いかける。


心臓が嫌な音を立てていた。
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