恋口の切りかた
とん、という音が近くでして


円士郎が我に返ったように私の体を離した。

私は慌てて涙を拭って、


見ると、鬼之介が屋根の上から私たちの近くに飛び降りて来ていて、眉間に皺を寄せて私と円士郎を見比べていた。


真昼の往来だったことに気づいて、私はまた落ち着かない気分で円士郎の顔を見上げて

円士郎がじっと私のことを見つめたままで、目が合って、

ほっぺたが熱くなって、どきどきした。


どうしよう、どうしよう……


こんな顔してたらエンに気づかれちゃうよ。

心臓の音、聞こえてないかな……。


私はうつむいて、胸を押さえて


「どうしてだ!? 人形斎さん、なんであんたが──」

与一が声を上げた。


「あんた、こんなことする人間じゃあないだろう!? あんたがこの義眼を作ってくれたからこそ、鈴乃森与一は人気女形になれたんだ!」

同心見習に取り押さえられた狐面の男に向かって、与一はそんな風に必死に叫んで、

懐から、あの時砕けた義眼の欠片を取り出して、狐面に突きつけた。
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