恋口の切りかた
「俺に話ってのは何だ?」

適当に団子や菓子を頼んで、
運ばれてきた茶をすすりながら尋ねると、風佳はびくっと肩を震わせた。

「おいおい」

俺は許嫁殿の態度に苦笑する。

「昔から俺はお前に嫌われてるとわかってるけどよ、そこまで怖がらなくてもとって食ったりはしねェよ」

「こ……怖がってなどおりません」

風佳は俺をキッと睨んでそう言った。

俺は肩をすくめる。

「じゃあ、何なんだよ話って」

「それは……」

風佳はまたキョトキョトと周囲に目を泳がせた。


なんだ……?


そんなに言い出しづらい話なのか?


俺が眉間に皺を寄せると、

「え……円士郎様はっ」

風佳は慌てたように口を開いた。

「おつるぎ様のことをどう思ってらっしゃるのですか?」

ぶほっ、と思わず茶を吹いて俺はむせ返った。

「な……何、言って……?」

いきなり核心を突いた質問だった。


──待て待て。


俺は咳き込みながら、このおっとりした世間知らずな許嫁を涙目で見つめる。

風佳には、俺が留玖に片思い中だということは当然知らせていない。


自分は風佳ではなく留玖に惚れておいて勝手ではあるが──

それでも、己の許嫁に他に思い人がいると知った時、俺はそれなりに衝撃を受けて裏切られたような気分を味わった。


風佳の自害騒動の時に親父殿が怖い顔で詰問してきた理由はよくわかる。


俺にも他に思い人がいるなど、この許嫁殿には教えないほうがいいだろう。

酷い話かもしれないが。

ただでさえ後ろめたいのに、この上──留玖とはまた違う意味で純情そうなこの娘を傷つけるような真似はしたくなかった。
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