恋口の切りかた
茶を口元に運びかけて──

「あ! てめえ、与一!」

見知った顔を通りの人混みの中に見つけて、
手にしていた湯飲みを縁台に置き、俺は立ち上がった。

「円士郎様……?」

焦った声を出す風佳に、

「悪ィ、風佳。すぐ戻る」

そう言って、その場を離れ──

「おや、円士郎様」

とぼけた調子で声をかけてくる、着流し姿の美丈夫に足早に歩み寄って、俺はその美貌を睨みつけた。

「あれあれ? 今日はおつるぎ様と一緒じゃないのかえ? あの娘は誰だえ?」

「……俺の許嫁だ」

俺の肩越しに風佳を見やって訊いてきた与一にそう答えると、右目に眼帯をした普段着の役者は左目を少し丸くした。

「へえ?」

それから人気女形は俺にジロジロと無遠慮な視線を注いで、

「まったく、よくわからないねえ……円士郎様とおつるぎ様はいったいどうなってんだい?」

と、美声を震わせて言った。

「それはこっちのセリフだ……!」

俺は目元涼しい役者姿の侠客を睨み据える。

「てめえこそ、留玖と何こそこそと町歩きなんてしてやがった……!?」

俺の問いに与一は、ん? と整った眉を寄せた。

「何って……おつるぎ様からまだ何もないのかい?」

「はあ? 留玖から? 何の話だよ」

「おっと、こいつァ──随分と手間をかけてやがるんだねェ」

与一はにやにやしながら意味不明の発言をして、

「憎らしいじゃないかい! え?」

などと、口走った。
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