恋口の切りかた
「こいつは俺の恋女房ってとこだ」

青文は堂々とそう言って、亜鳥が嬉しそうに頬を染めた。

「おや。奥方だったかい」

と、与一が目を丸くした。

「そう言えば、最近祝言を挙げたと聞いてたねェ」


奥方……か。

そう言えば、与一もまた、この金髪の男が町人に化けた城代家老だということを知る数少ない人間だったな。


あの廃寺で、

尼僧に化けたこの侠客と交わした会話の中で、


俺に対して与一が、あの事件の捜査を「この男の命令で」行っているのか、

という意味合いの言葉を寄越してきたことを俺は思い出した。


あれは暗に、

この俺よりも前からつき合いのあった与一が、遊水という存在についても正確な知識を有していることを示していたのだ。


「あ、紹介が遅れたが、この男は──」

「人気女形の鈴乃森与一殿だろう? 今は目の怪我で休業中の」

俺が与一を紹介しかけると、亜鳥はそれを遮って彼の名前と現状を言い当てた。

ううむ、さすがは城下一の人気役者。
亜鳥でも知っていたか。

「こっちは俺の許嫁の風佳だ」

と、俺は与一に、隣で蒼白な顔をしたままの許嫁殿を紹介した。

「大河余左衛門の娘、風佳です」

風佳は与一にぺこりと頭を下げて名乗った。

「彼女も何度か冬馬や留玖と一緒に鈴乃森座に連れてって、与一の舞台を見せてるんだけどな」

俺は、随分と顔色の悪い風佳の様子が気になりながら、そう説明して、

「おや。それはご贔屓に。今度はぜひ、楽屋にも顔を出してくださいな」

与一が接客用の慣れた口調で優美に言って、風佳を流し見た。

「……はい」

風佳は消え入りそうな声を出して頷いた。


どうしたんだ?


さっきから風佳は気もそぞろといった体で、なお一層落ち尽きなく周囲を見回したり、茶を口に運ぶ俺のほうをちらちら見上げたりしている。
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