恋口の切りかた

 【円】

留玖が俺のことを好きだと言ってくれて、

それでも一緒にはなれないと言うのを聞いて、


彼女と俺の間に未だに横たわっている溝がよくわかった。


そんなもの、今すぐにでも否定して、関係ないと言ってやりたかったが──

同時に
彼女がそれに縛り付けられていることは、留玖の持つとても尊く大切な一面でもあるのだと思う。

世の中の女には、身分や出自など気にもせず、
彼女と同じ境遇にあれば容易に境界を踏み越えて格の高い武家の妾になりたがる者もいるだろう。

しかし留玖は恩義で己を押さえつけて、許されないことだと頑なにその境界を守っている。


それは彼女にとっては大切なことで、

ただ彼女を欲するあまり、俺が簡単に壊していいものじゃない。


妾になんてしない。

そこらの遊び女を相手にするように、簡単に手を出して俺のものにしていい女じゃない。


苦しみながら俺への思いを伝えてくれた、汚れのない真っ直ぐで純粋な留玖の心にちゃんと応えてやりたかった。

大切にしてやりたかった。



この先どんな運命が待ち構えていようと

絶対に俺がこいつを幸せにすると、俺はこの日もう一度固く誓った。
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