恋口の切りかた
「いったい何やってんだ、てめェ」

俺はあきれて、

「それはこちらのセリフだ馬鹿者が」

鬼之介が顔をしかめた。

「許嫁がいるのに、おつるぎ様に思いを向けたりするからだ。
報いだな、いい気味だ」

そんな憎まれ口を叩いて、

「ん?」と鬼之介は怪訝そうに眉を寄せた。

「貴様、何故そこでニヤケる?」

「え~? 別に俺、ニヤケてねーけど」

「き、さ、まァ~!!」

俺が今、どういう顔をしているのかはわからないが、
鬼之介は顔面蒼白になってぷるぷる震える指を俺に突きつけ、

「さてはおつるぎ様と何かあったな!? まさか手籠めに──」

「してねえよ! 斬り捨てるぞ!!」

俺が腰の一本差しの鯉口を切って睨み据えると、ふん、と鬼之介は鼻を鳴らした。

「毒は抜けたのか? 後遺症が残るなどと聞いたが……」

「え?」

俺は少し驚いて、相変わらず血色の悪い男の顔をまじまじと見つめた。

「風佳がためらってくれたおかげで、何ともねーよ。
……なんだ、てめーも一応心配してくれんのかよ?」

「別に。ボクを家来にすると言っておきながら勝手に死なれても困るだけだ」

鬼之介はそんな風に言って、そっぽを向いた。


俺は苦笑して、


青文に隼人、そして鬼之介も──


昔は留玖しかいなかった俺に、

今は身を案じてくれる者がいるんだなと思った。
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