恋口の切りかた
「勝手に死なれて困るのはこっちも同じだ」

俺は肩をすくめた。

「鬼之介お前……身の回りの世話をしてくれる人間が、本気で必要なんじゃねーのか?」

「言っておくが、ボクには人を雇う余裕など無い。
金も払わず、無償で身の回りの世話をしてくれるなど……そんな都合の良い人間がいるか!」

吐き捨てる鬼之介に向かって、俺はニヤッと笑った。

「いるぜ? 一人、うってつけの奴が」

「む?」

無論、俺の脳裏に浮かんだのは、留玖の部屋の天袋に住み着いているデバガメ幽霊女である。

「今度、そいつをここに寄越してやるよ」

俺はにやつきながらそう言って、



「円士郎様──!?」

驚いたような声がかかって戸口を振り返ると、眼帯をした女形が立っていた。

「おう、与一」

「『おう』じゃないだろ!」

着流し姿の与一は、ぎょっとするくらい忠実に俺の声を真似て繰り返して、

「あんた大丈夫なのかい? 毒は!?」

こちらは真っ向から俺を心配してくれる言葉を口にした。

「すまねえ。あんたにも世話になったな」

俺は与一にもざっとあの後のことを説明した。

話を聞いた与一は、とにかく無事で良かったと言ってくれて──

留玖を狙ってやがるところは気に食わないが、
こいつのこういう人情に厚いところは居心地が悪くはないなと思った。

「それで、仕上がったのかい?」

鬼之介の長屋を訪ねた目的は義眼らしく、与一は眼帯を指でなでながら、

「どうも『舞台とは別の仕事』で目玉が必要になりそうなんだ。早いとこ頼むよ」

と言った。
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