恋口の切りかた
芝居以外の仕事……ということは、任侠絡みということだろうか。

与一は端正な顔を嫌そうに歪めた。

「こっちも、恐ろしい御家老様への借りなんざとっとと返しちまいたいんでね」


って、あいつの依頼した仕事かよ!


そう言えば、俺が毒を盛られた日、あいつが与一に何かやらせようとして話を持ちかけていたのを思い出した。

青文がこの侠客の男にどんな話を持ちかけたのかは謎だったが、

「まだ最後の調整が残ってはいるが、義眼ならとりあえず完成した」

という鬼之介の言葉を聞きながら、俺は長屋を後にした。




一刻も早く屋敷に戻って留玖の顔が見たかった。

鬼之介の言うように、顔がにやけてしまっていたとしても仕方がない。


あの日、互いの思いを確かめ合って以来──

ようやく彼女と恋仲と呼べる関係になることができて、俺は舞い上がっていた。


もっとも、留玖はまだ頑なに俺との関係を許されないものだと考え続けていて、

彼女を大事にしたい俺も、うかつに手籠めにしたりはできず──


一緒にいればいるほど俺の不満は蓄積されて、己を抑えるのが大変になってきていたりするのだが。

彼女の「心」が自分だけのものだ、というだけでは──男の俺はやはり満足できなくなりつつあった。
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