恋口の切りかた
私と同じように稽古着を着て木刀を手にしたその若者は、月の光が皓々と降り注ぐ河原の草むらで、鋭い剣を振るっていた。

見覚えのある、涼やかで整った線の細い面立ちと、冷たい冬の空のような目。


「海野清十郎様──?」


私が呟いて、


青年が手を止めて振り返り、土手に立った私を見上げた。


「結城の──おつるぎ様ですか?」


一人で木刀を手にして河原に現れた私を見て、
殿様の家から家老家の養子に来たという若い侍は驚いたように目を見張った。

「このような刻限にお一人で、いったい──?」

「あ、あの……稽古を」

まさか人に目撃されるとは思っていなかったので、私がうろたえながら答えると、

「ああ──俺もです」

清十郎は少しだけ照れたように微笑んで、それから不思議そうに首を傾げた。

「結城家には道場があるでしょう。夜中に稽古がしたくても、屋敷を抜け出す必要はないのでは?」

「屋敷には、一人で稽古をしているところを見られたくない人がいるもので……」

土手を降りながら私は答えた。

「そうですか。ちょうど良かった」

清十郎は、河原に降り立った私に向かって氷のような印象の微笑をこぼして、

「以前の約束、覚えておいでならば──よろしければ稽古相手になっていただけませんか?」

と言った。
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