恋口の切りかた
木刀を下ろして、

肩で息を整えながら、私は清十郎を見つめて、さっき一瞬彼が怯んだような様子を見せたのはどうしてなのだろうと考えた。

「……驚いた」

清十郎は苦笑して、

「あなたはいつも剣を振るう時、そのように楽しそうに笑っているのですか」

と言った。

「え……?」

「いえ」

清十郎は気を落ち着けるように首を振った。

「噂に違わずお強い。ご迷惑でなければこれからも──時々このようにして稽古の相手になっていただけないでしょうか」

そんな風に頼まれて、私は思わず「是非」と頷いていた。

どきどきと、胸が高鳴っていた。


この人は──強い。


私や円士郎と互角に渡り合えるほどに。

確信できた。
この人とこうして勝負を繰り返せば、きっと私はもっと強くなれる。


それからというもの、私は夜な夜な屋敷を抜け出しては、深夜にこの若者と河原で落ち合って、稽古に打ち込んだ。

円士郎には言えず、このことは黙っていた。


これは、円士郎に隠れて、男の人と夜中に密会を繰り返している……ということになるのかな。


そんな罪悪感が頭をかすめたりもしたけれど、

清十郎とは単に剣の稽古をしているだけだ。

そう思って、私は深夜の外出を繰り返した。
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