恋口の切りかた
堀の近くを歩いていた時、向かいから供を連れた若い侍が近づいてきた。

さして気にも留めず、擦れ違おうとした瞬間──


「結城円士郎殿──だな?」


そんな言葉とともに、突然その男は居合い抜きに斬りつけてきた。


「な──!?」


驚愕しながらも、俺は刀を抜いて鋼の輝きを受け止め──


「ほう。さすがだな」


俺と刀を合わせたまま、若い侍はそんな賞賛の言葉を口にした。


俺は、すっきりした目鼻立ちの初対面の男を眺める。

二十歳前後の好青年という感じだが、こちらを見据える眼光は鋭く、氷のような冷え冷えとした印象がある。

男がまとう黒い紋付き羽織に染め抜かれた家紋は──


──中かげ桐車。


こいつ──


「てめェ、海野家の人間か!?」

ぎりぎりと刀に力をかけて押し合いながら、相手を睨んで問うと、


「海野清十郎」


と、口元に冷笑を湛えてそいつは名乗った。
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